桐たんすの歴史と日本文化

 日本において、桐たんすや家具の歴史は、大変浅く、江戸時代後期から、明治の初め位から、使われるようになりました。
 おそらく、西洋の文化が、入ってきたから、家具というものを、使われるようになったと思われます。
 それまでの日本には、家具という発想はほとんどありませんでした。
 ですから、桐たんすは、西洋文化が、生んだともいえるでしょう。ただ、日本で生まれた桐たんすは、やはり日本の生活様式に密着していて、日本的な特徴を持ち合わせております。
 その特徴の一つに、昔の桐たんすは、棹を通して持ち運べるように、棒通しという金具が横側に、ついております。つまり、移動して、持ち運べるようになっておりました。
古い昔の桐たんす 一般に、これは、火事の時、持ち出して逃げるためと言われておりますが、それよりも大きな理由があると思われます。それは、日本人の、生活様式と、ものの考え方から来るものかと思います。
 それは、どういうことかと言いますと…

                     古い昔の桐たんす
                            

日本人の生活と文化の伝統と桐たんす

作業風景  桐たんすを、一般的に使うようになったのは、江戸時代後期〜明治時代からです。
 それまでの日本には、家具という発想は、ありませんでした。こうりや、風呂敷、押入れを利用していました。座敷机や、テーブルもありませんでした。箱膳といって、ご飯を食べる時、それを、出して、使っていました。たんすや、テーブルというのは、西洋から入ってきた、文化でありましょう。 
 そういう日本で生まれた、桐たんすは、最初からこうりや、箱膳のように移動することを考えて、作られていました。女手1人で、持ち運べる軽さと、大きさが基準になっていました。
 そして、桐たんすの側面には、持ち運び用の取手金具が付いていました。左右から棒を通し担ぐために、棒通し用の金具というものも付いていました。桐たんすの引出しについている鍵も引越しや、移動用の名残です。
 では、なぜ桐たんすは、移動することを、前提に作られたのでしょうか?
 火事や、風水害の時、大事な着物など箪笥ごと、持ち出して逃げるという考えも1つには、ありますが、一番大きな理由は、日本の住居や、日本人の暮らし方にあると思われます。
 日本の伝統的な家は、欧米の家と違い、そもそも、寝室や、居間、客間といった部屋の明確な区別がありませんでした。
 ご飯を食べる時、箱膳を出してきて、ご飯を食べ、寝るときは、片付けて、押入れから布団を出して、敷いて寝るといった具合です。つまり、ベットもなければ、据え置きのテーブルもありませんでした。つまり、居間が、寝室にもなり、客間にもなり、そこで、ご飯を食べることもあります。
 また、部屋と部屋の仕切りを、間仕切りといいますが、普通、きちんとした壁で仕切られているわけではなく、ふすま1枚で仕切られていました。昔は、法事や、冠婚葬祭は、家で行われることが多かったですが、そういう、お客様が、大勢来られる時は、ふすまを外して、部屋の仕切りをなくして、大きな部屋として使う。そしていらない物は、押入れに片付ける。そんな時、箪笥も、どけるか、移動することも行われたことでしょう。そんな時、箪笥は、軽くなくてはいけませんでした。軽い桐たんすは、非常に便利で会ったと思います。
 また、ふすまも、非常に軽いです。指1本で開け閉めできます。しかし、ドアと違って、敷居の上を滑って開け閉めするため、非常に、精密で、密封性が高いです。そして、外して持ち運びする時も、何枚も、重ねて、運べるほど、軽いです。これは、桐たんすと非常に良く似ていると思いませんか?
 また、日本の家では、一番、良い部屋には、床の間や、書院がついて、もちろん、押入れがあったり、仏壇を収納するための、押入れに似たようなものがありますが、そういう、一番良い部屋には、たんすや、机など何も置かないのが、一番良いとされていました。ですから、仏壇も使う時だけ、観音開きのふすまを開けて、使う。普段は、仏壇が、どこにあるのか分かりません。シンプルというか、単純というか、やはり、われわれ、日本人は、シンプルな事を、どこか、尊ぶような所があるのかもしれません。
桐たんす(小引き出し、時代金具付き、木地仕上げ) そして、日本の住居や、部屋の使い方に見るように、日本人は、固定した、使い方を嫌う傾向にあるかと思います。風呂敷などその典型です。大きなかばんにもなるし、小さなかばんにもなり、持ち運ぶ物によって、自由自在に変化します。また、襟巻きにもなりますし、頬かぶりにもなります。かばんもおそらく、西洋から入ってきたものでありましょう。日本人は、風呂敷という、単純な四角い布切れ一枚で、使う人に合わせて、色々と用を済ませていたのでありましょう。
 このような例は、沢山あります。例えば、履物もそうです。ぞうりは、足の親指と人差し指の間に、鼻緒を引っ掛けて、履きますが、足のサイズや、形を選びません。靴は、5mm刻みに、サイズを選び、また、その人の足の形に合った物しか履けません。さらに、伝統的なぞうりや下駄は、左右の区別もありません。履いているうちに、その人の、左や、右の足に、鼻緒が伸びて合ってくるように出来ています。この足の親指にひっかけて履くぞうりですが、世界中で、日本位しかないように思います。
 だいぶ話が、それましたが、桐たんすの話に戻します。普通、箪笥などの家具は、欧米など外国では、堅い木を使います。堅い木は、重たいですから、当然、外国の家具は、重たくて据え置きです。軽く、柔らかい、桐を使った、桐たんすのような、家具は、外国では見られません。軽くて、移動して、使う、桐たんすは、全く外国の家具とは、逆で、日本の文化で生まれた、ユニークで特殊な家具と、考えられます。そして、ろくに塗装もせず、通気性を持たせています。さらに、桐たんすは、柔らかく、キズが付きやすいので、削り直して、更にして使います。桐たんすは、西洋の家具と比べると、単純な形をしていて、桐も柔らかいので、大変、削りやすいし、直しやすいです。大変、柔軟で、柔らかい発想と言えるかも知れません。
 このように、日本の文化や、暮らしや、道具の使い方は、非常に、個性的で、柔軟です。こんな、「和」の文化を大切にしたいと思います。「和」とは、「やさしい」とか、「やわらかい」とか、「なごむ」と言う意味ですが、まさしく字の通りかなと思いませんか。

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